PSOオリジナル小説「時を越えた宿命」 《外伝01:その組織こそ「タークス」》
パイオニア2の居住区にあるとあるビル。 そのビルが、裏世界では名が売れている組織『タークス』の本部ビルであることは知る者は少ない。
タークスのことで皆に知られているものは、ボスのサムスが作ったパイオニア2内各地に作られたバーである。 何も知らない一般人から、敵対する裏組織の人間までが普通に客として来店できるバーである。
そのタークス本部ビルの最上階の一室。 「サムスのお・へ・や」
と言う表札が掲げられている扉の奥に、サムスがタークスの各隊員と会う為の執務室がある。
その奥には恐らくサムスの私室があるのだろう。 しかし、このフロアの大きさからすると、執務室の大きさは比較的小さかった。 それでもこの執務室はこのパイオニア2に存在するあらゆる企業の社長室よりは大きかった。
その大きな部屋の奥の方にたくさんの端末に囲まれたこじんまりとした机があった。それがサムスの執務机である。
また部屋の右の方には窓に面して、応接セットが置いてあった。ここで来客や来訪した隊員を迎えるのだ。
そして何よりも、部屋の奥の左右に2体のアンドロイドがいるのが印象的だった。 秘書兼ボディガードとして働いてるアンドロイドだ。片方はレイキャストであり残りの片方はレイキャシールである。 各々、自分たち用の端末がいっぱい付いた執務机を持っている。
本来、サムスの秘書兼ボディガードは 本星にいた頃は『ウルフ』と呼ばれる大柄でグラマーなハニュエールが担当していたのだが パイオニア2が出航する頃に、ある事件に巻き込まれ多大な負傷をしてしまい 今もなお本星の研究施設で治療を施されているのだ。
その『ウルフ』の代わりに秘書兼ボディガードとしてサムスが任命したのが 『ヨウラク』という名前で呼ばれる大型のレイキャスト(主にボディガードを担当)と 『シュロ』と言う名前で呼ばれる小柄のレイキャシール(主に秘書としての仕事を担当)である。
「ヒマね〜。」
執務机の上に上体を倒して寝そべって、サムスが言う。
「そんなに暇なら、少しはこの仕事しますか?」
そう言って、自らの執務机の上に山積みなっている書類の山を指すシュロ。
サムスは慌ててシュロが入れてくれたお茶を飲んだ。
「ふ〜。お茶がおいし〜わね〜。」
「さむすサマ・・・・・。ゴマカシガヘタデスネ。」
自分の執務机で端末に向かって色々な情報を入力しながら、ボソッとヨウラクが漏らす。 「いつもいつも話しをはぐらかして・・・・。ホントにボスとしての仕事をどんどんこなして下さい。」
シュロがサムスに向き直り、きっぱり言う。
「星が綺麗ね〜・・・・・・・・。」
そう言って、応接セットの方に歩いていくサムス。緑の髪がそっと揺れる。 今は普段着だが、いざ戦闘となるとレイマールの戦闘服に見を包む。 サムスは長身の上にプロポーションが良い。そして綺麗な顔立ちをしている為、一部の隊員に密かな人気がある。
本名、サムス・アラン。しかしこの本名以外、サムスの素性を知るものはまるでいない。
サムスは本星にいた頃はフォーマールであった。これは皆の知る所である。 しかし、パイオニア2に乗ったとたん、レイマールになっていたのだ。 これにはタークス隊員を始めとして、敵対する組織のものを含めサムスを知るもののほとんどが噂をしたものだった。
「フォーマールが影武者で、今のレイマールこそが本当のサムスなのだ。」 「いや。むしろその逆で、本物は今も本星にいて、今いるレイマールこそが影武者なのだ。」 「もしかして、既に本物は死んでいていないのでは?」
そのほとんどが真実からは遠いものであったが、人々はある程度の結果を出すと安心するのだ。 しばらくするとそう言う噂も静まっていった。 タークスの情報収集&分析主任であるクルツはこう言ったものだ。
「サムスは色々な格好をするのが好きだから。 私にもどれが本物の職業なのか分からないけど、まあサムスはサムスだからね。」
窓際まで歩いていってしまったサムスの後姿を見ながらシュロは呟く。 「まったく・・・・まあ、それがあなたらしいと言えば、あなたらしいですけどね・・・。」
そう言いながら、サムスの代わりに仕事をこなしていくシュロ。
シュロがアンドロイドでなければ この時の表情の変化や仕草の変化で心なしか嬉しそうに仕事をしてるのが分かるかもしれない。
しかし、サムスの『ヒマ』という言葉とは裏腹に、意外にタークスに舞い込む仕事は多かった。
パイオニア2には軍人が少なく、主にハンターズギルドに登録されているハンターズが多かった。 もちろんハンターズギルドにも依頼は多いのだが 長期間受けるハンターズがいなくて、そのままとなる(主に簡単な、日常的な)依頼は ほぼタークスに持ち込まれるのだ。
そして持ち込まれた依頼は、受付からサムスを通り各隊員に指令としていくのだが、この作業はサムスは率先してやっていく。 しかし、その指令が済み、事後報告書が上がってきたものに目を通すのをサムスは嫌うのだった。 それを代わりにシュロがやるのだから、サムスがヒマなのは当たり前だった。
サムスがいやがる理由・・・・それは非常に簡単だった。
「ほとんどの仕事が大赤字」だからである。
そう。・・・・・・・・・・サムスは困った人を放って置けない性質なのだ。 そう言う人を見つけると、ほぼ採算度外視で手伝ってしまう。
タークスの皆もそんなサムスの性質を知っているから、大赤字な組織にいても仕事をこなしているのだ。 窓の外には、綺麗に整然と並ぶビル郡があった。ここの居住区の中では企業区となっている一角である。 どのビルもほぼ同じ大きさで並んでいて、その隙間を縫う様にエアーカーが走っている。
いつも宇宙空間を漂うパイオニア2で、1日の変化はあまり意味無いのだが それでも朝、昼、夜で照明が変わるようにセッティングされている。 また、天候倫理委員会が設定している通りに、その日その日で各地区ごとに天気が違うのだ。
窓の外を眺めながら、サムスは昔を思い出していた。そしてそっと呟く。
「私は、皆が平和に暮らせる世の中であって欲しいと思うのよ。 その為に、困っている人を助ける為に作ったのが『タークス』。 そう、その為の組織こそ『タークス』なのよ。」
「私も、あなたの考えに賛同させてください。」
いつのまにかサムスの後ろにはシュロが来ていた。サムスに外套をそっとかける。
「もちろんよ。頑張って頂戴ね。」
「はい。」
タークスはいつも変わらない。それは、構成人員が増えても同じだ。
サムスはまた気持ちを新たに、困っている人達のために手を貸していくだろう。
こうして、また1日タークスの1日は過ぎていく。
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