PSOオリジナル小説「時を越えた宿命」 《外伝02:その女「サムス・アラン」》
パイオニア2の居住区にあるとあるビル。 そのビルが、裏世界では名が売れている組織『タークス』の本部ビルであることは知る者は少ない。
そのタークス本部ビルの最上階の一室。 「サムスのお・へ・や」
と言う表札が掲げられている扉の奥に、サムスがタークスの各隊員と会う為の応接セットも置いてあリ、普段は仕事場である執務室がある。
今日はその部屋の中で、サムスは自分の執務机に向かっている。
珍しく仕事をしているのだろうか。熱心に端末をたたいてはその画面を覗いている。 そしてお茶を飲み・・・暫しの休憩をする。その繰り返しであった。
秘書役の任についているレイキャシールのシュロは自分の仕事が(本来はサムスの仕事だが)一段落した後 サムスのほうを向くとサムスのその熱心な仕事振りに驚いた。
そして、サムスの後ろからサムスが一生懸命見ている端末のディスプレイ画面を見てみたが・・・。
『冬物コート全品10%割り引き・・・』
『あなたを彩る宝石の数々・・・・・バーゲン品から特注品まで・・・』
『ブランド物なら、ぜひ我が店を・・・・・いまなら時計がお得です・・・』
画面の上は所狭しと色々な店の宣伝文句でいっぱいだった。
「サムス様・・・・。」
シュロは怒りが湧きあがるよりも、飽きれてなにも言えなかった。
「あら?見てたの?おほほほほほほほほ。」
「笑ってごまかさないで下さい!・・・・・・・珍しく仕事してると思ったら・・・・・。」
「ショセンイツモノコトダロ・・・・。」
自分の仕事机に向かいながらサムスのボディガードの任を努めるレイキャストのシュロがボソッと漏らす。
「まあまあ、シュロちゃんも落ち着きなさいな。ああいうのを見て、ストレスを発散するのも十分大事なことよ? ストレスが溜まったまま仕事をして、それでミスをしたら、それこそ取り返しがつかないものだわ。 だから、あなたも、たまには息抜き・・・・・・・・・。」
そこまでサムスが言い訳とも、正論ともとれる自説をしている時だった。 突然ヴィジフォンが鳴り、慌ててシュロがそれに出る。
ヴィジフォンをかけて来た相手はクルツだった。
「ああ、シュロか。サムスは?かわってくれ。」
シュロは端末を操作し、カメラをサムスのほうに向けた。
「サムス!緊急依頼だ。しかも2件。ランクで言えばどちらも『Sクラス』の大仕事だ。」
「あらあら・・・・・・それは大変。・・・・・・・・でもそのランクはやる人がいないわね。 ・・・・私がやるしかないのね。」
「なに言ってるんだ?いつもSクラス以上はお前の受持ちだろうが。」
しかし、クルツの言うことを聞いているのか、サムスはシュロが煎れてくれたお茶を飲んだ。
「ふ〜。お茶がおいし〜わね。」
「お茶を飲んでる場合か!しっかり依頼書を読んで検討してくれよ?判断はいつものようにお前に任せるから。」
そう言うとクルツはヴィジフォンを切った。
ハア・・・ハア・・・ハア・・・・
一人の男が路地裏を走っている。
男の顔は普段であればかたぎには決して見えず、また道を歩くものは避けるほどの強面であった。
しかし今は、必死に逃げる男の顔であった。
ある路地を曲がり、次の路地はまた違う方向に曲がる。
時々後ろを振り向くのは、追跡者を上手く振り払えたか確かめる為であろうか。
『ここまで来れば・・・・このルートはいつも大抵の奴をまく事ができた道だ。 追跡者が誰かは知らないが、いかにプロでもまけたろう。 そう言えば、さっき入れた報告は本部に届いたかな? まあ、しばらくほとぼりを冷ますつもりで、地下に潜るか。』
男は激しい息使いを整えながら、煙草に火をつける。
シュボ・・・
ライターに火が付き、それがタバコに移る。
その瞬間男の背後には本来ありえない人影があったが男は気が付かない。 男は上手そうに煙草の煙を吸うと、路地の黒い闇の中に紫煙を吐き出す。
「人生最後のタバコ・・・・・美味しかったかしら?」
背後から突然声をかけられ男は戦慄する。
男は懐に忍ばせた特性の小型フォトンハンドガンを取り出しながら、背後の人影の方に向いた。
「だ・・・・誰・・・・・」
本当は『誰だ?』と疑問を投げかけようとしたのだろうが、その言葉は途中で途切れた。 振り向こうとした男の額の真ん中に、フォトンハンドガンの銃口が付きつけられる。
男は中途半端な姿勢のまま固まったが、手に持ったハンドガンを投げ捨てると手を上げて無抵抗の意を示した。 しかし、目の前の人影は銃口を下ろさなかった。
「あなたの今までの行動は、私達と今回の依頼のクライアントにとっては非常に迷惑なのよ。 そして私達とクライアントの利害が一致したの。おかげで、その依頼のランクはSクラスになったのよ。」
その時、二人の頭の遥か上をエアーバスが走っていった。 そのエアーバスの下方を照らすランプのおかげで、男は目の前の人影の正体がわかった。
「タークスの・・・・・・サムス・・・・・・。」
少しの間だが、男は、はっきりと見た。 緑の髪に赤い帽子、赤いレンジャーベストを着たすらっとした綺麗な顔立ちをした女性。 「・・・・・そう。Sランクと言うのは、サムス専用ランク。 そのランクの依頼は私が直接手を下すのよ。」 サムスはにじり寄る。
「・・・・・それじゃあ、そろそろさよならね。」
サムスの殺気を感じたのか、男は一歩後ずさる。それにつられて一歩踏み出すサムス。
「ちょ・・・・・・ちょっと待ってくれ・・・・・俺と・・・取り・・・・・・・・・・。」
サムスは男の言葉には耳を貸さずに手にしたハンドガンの引き金を引く。
プシュ・・・
サイレンサーを付けたハンドガンの黄色いフォトンが男の頭を破砕する。
「ゴクロウサマデス。さむすサマ。」
その後ろのビルの影から、大きな装甲をしたレイキャストが出てきた。 ヨウラクである。彼は、サムスのこなす依頼が果たされるまでは影でサポートに徹する。 そして、最後には依頼をはたしたか見届けるアンドロイドである。
「それじゃあ、お仕事も済んだし、帰ろうかしらね・・・・。」
「ハイ。・・・・・・トコロデさむす様。モウヒトツノ依頼ハ良イノデスカ?」
「エ?・・・・ああ・・・あれね。あれはもう良いのよ。私に任せといてちょうだいな。」
「サムス様ガソウ仰ラレルナラ、ソウ言ウ事ニシテオキマス。」
同時刻、サムス達がいる所からかなり離れたあるブロック。
「今回は2件も重なるなんて面白いわね。おかげで久し振りに依頼をこなせたわ。」
フォースの格好をした人影がそう言う。 その隣にはハンターの格好をした人影があった。
「そうですね。私も久し振りに体を動かしましたよ。」
そう言う二人の回りには、戦闘員らしき男達とその指揮官らしき男の死体が山積みになっていた。
「それじゃあ、帰ろうかしら?」
「そうですね。でも、回りを警戒してください。あたし達が人に見られたら、折角の計画も無駄になりますから。」
「大丈夫よ。相変わらず心配性ね。」
そう言うと、フォースの方はリューカーを唱えた。
そして、二人は光の輪に入って消えていった。
残されたのは、数え切れないほどの戦闘員の格好をした死体だった。
再び、サムスの執務室。
「2つの任務完了おめでとうございます。クルツさんに、報告しておきますね。」
ピンク色の塗装をされたレイキャシールのシュロはサムスの秘書の任を果たしている。 そして自分の机の端末を通してクルツに任務終了の報告を入れた。
サムスは応接セットの椅子に座りながら、シュロに煎れてもらったお茶を飲みながら、窓の外の景色を見ていた。
「相変わらず、シュロちゃんが煎れてくれたお茶はおいし〜わね。」
こうして、またタークスの1日が過ぎていく。
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