どーも、X線です。 ver1.1のアイテム回収が一段落したので、執筆活動再開です。 手始めに、ちょっとした短編を書いてみようかと思います。
よろしければ、お付き合いくださいませ。
タークスの日常
巨大宇宙船パイオニア2。地球的規模でいえば、一つの小国にも相当する大きさの宇宙用移民船である。なぜ、その様なものが開発されたのかは、以前に記したことがあるので、ここでは省かせて頂くが、国家が安全を保証した移民船であるそれは当然のこととして、船内には確固たる文明社会が機能する様になっていた。
そこには政府があり、商社もあれば、軍隊までもが存在する。それは人が惑星に住むのと、必ずしも同一というわけでは無かったが、それでも限りなく惑星での生活環境と酷似したものを再現していた。 無論、太古の人員一人々々が、持てるかぎりの知恵と力を振るわねば、航行もままならかった宇宙船とは違い、コンピュータがそのほとんどを代行してくれるので、それと平行して生まれる生活の自由から、犯罪者もでてくる。
だが、それほどまでに発達した科学力を用い、人工の建築物に惑星と同レベルの環境を築ける様になっても、人は未だ、母なる大地を必要としていた。
「ふぅ、そろそろ疲れたな」
ひとりの男が、狭くも小綺麗に整理された明るい部屋で、コンピュータを操作している。そのコンピュータは、この時代にはやや珍しくなった、実物タイプのモニターとキーボードで操るものであったが、しかし彼の手つきを見れば並々ならぬ経験と、知識の持ち主であることが伺える。
つまりは、ただ者ではない、ということだ。
だが、そんな彼も長時間の作業にはやはり疲労するらしく、なぜか付けていた三角のサングラスを外し、眠そうな目をこすっている。
「コーヒーでも飲むか」
この時代でも、我々が飲食するものと同等のものが存在している。無論、科学の発達によって生み出された様々な新食品もあるにはあったが、やはり「食」という人間のもっとも原始的な欲望を満たす為には、古来より伝わった伝統的な「料理」が、必要とされたのだ。
とはいえ、同時に人間は本質的に怠け者でもある。かつて、これらの料理や飲物を作るのには、相応の時間を要していたものだが、もっと簡単に作れないものか、という人類きっての要望が叶い、現在は少しコンピュータを操作するだけで、ものの数分で口に運ぶことが可能になっていた 。
現代の我々、地球人の感覚でいえば、レストランで出てくる様な食事が、自動販売機でジュースやコーヒーを買うかの如くして作ってしまえる、などと想像して頂ければ丁度良いだろう。
かくして彼が、手元のコンソールをいじると、直ぐになみなみとコーヒーの注がれたカップが、コンピュータを置いてあるテーブルの上に運ばれてきた。便利なものである。
「クルツさん、例のプログラムは出来たかしらぁ」 「ああ、サムス、いつからそこに……」 「いまよぉ♪」
彼が休憩のコーヒーを飲んでいると、いつの間にか後ろから女性の声が聞こえた。やや間延びしている所が、どこか人懐こく、安心感を与える声色である。 クルツという名前らしい彼は、その声をよく知っていた。彼女の名はサムス・アランと言い、彼が所属しているハンター援助組織「タークス」のリーダーである。
ハンターという職業は、じつに様々な危険をはらんでいる。犯罪者の取り締まりから、要人警護や重要物資の護衛、さらに現在にいたっては未開の惑星を調査するなど、ほとんどなんでも屋的な扱いの職業なのだ。 それだけに、あらぬ所から恨みを買ったり、想像を絶する危機に追い込まれたりもする。 その分、報酬は大きいのだが、このような職業に就く者たちは、だいたいに置いて真っ当な人生を歩んできた人間ではなく、様々な問題を抱えている事が多い。
サムス・アランもまた、そのハンターの一人であるのだが、彼女が他の人間とひとつ違ったことは、人望だった。 どんな人間にでも、固有の形があり、色がある。我々はそれを、「個性」と呼称しているが、この個性は人にによって好かれたり、嫌われたりするのである。 つまり、人はそれぞれ自分の好きな個性のタイプ、というものを持っている。
そこからすると、サムス・アランという女性は、万人を引き付けてやまぬ「個性」を持っていた。だが、別に彼女はハンターとして超一流ではないし、剃刀のように切れる頭脳を持っている訳でもない。 ただ、サムスが口を開き、その屈託のない表情を見せると、人は彼女についてきた。
男であろうと、女であろうと、人間は人間に惚れる、ということがある。言ってみれば、サムスは人を惚れさせる才能を持っていたのだろう。 恐らくそれが、彼女を一大組織の長たらしめているのだろう。
「ああ、だいぶ出来てきたよ。見る?」
といって、クルツはタイヤ付きの椅子を転がして、席を譲る。 サムスは興味深そうにモニターを覗きこんだが、その顔はにこにことしているだけで、何を考えているのかよくわからない。 だが、じつは何も考えていなかった。なぜなら、モニターに映し出されるものは、アルファベットとアラビア数字の羅列ばかりで、およそ人間の言語には見えなかったからだ。
コンピュータには、人間の言葉は理解できない。では、どうやって命令を下しているのかというと、人間の言語をコンピュータの言語に翻訳し、理解させているのである。 いくつかの言語パターンがあり、翻訳しているのも無論人間であることに変わりは無いが、生理的に理解しにくいものだ、といわれている。
つまり、知識のない者が見ても、まったく読み取ることができない。その意味を考えろ、という方が無理な相談である。
「んー。わっかんないわぁ」 「そういうと思ったよ。さ、どいたどいた」 「あぁん」
サムスから席を奪い取ると、クルツはプログラム作業を再開した。キーボードを打って組み立てて行くのだが、そのキータッチのスピードは尋常ではなかった。
先にサムスについて少し触れたが、彼女が感情の人間とすれば、対してクルツは理論の人間だろう。 クルツには、人を磁石の様に引き付ける才能はない。だが、彼は非常に優れた観察眼と判断力を持っていた。今までもタークスは、援護組織というシステムの性格上、様々な事件に巻き込まれてきた。
その際、タークスを常に有利な方向にもっていったのは、誰あろうクルツその人であった。 さらに彼は、この時代にも貴重とされる知識がなければ動かせないコンピュータを、自由自在に扱えるという才能ももっていた。 人の社会は、どんなに優れた者でも、一人だけでは何もできないのである。どんな事を成すにしても、力を合わせなければ良い結果は得られない。
タークスを支えてきたのはクルツだけではないが、サムスにとってアール・クルツという友人を得ることができたのは、まことに幸いだったと言えよう。
「ン……こりゃあ」 「どしたのかしら?」 「いや、どうもね。どっかから、ここに不正ハッキングしてる奴がいるみたいなんだよ」 「大変じゃなぁい……」 「全然大変そうじゃないね、サムスは」 「クルツさんなら大丈夫よぉ♪」 「まあいいか……。さあて、それじゃ防衛するとしますか」
数時間後、クルツは再びコーヒーを飲んでいた。プログラムの方も大方済んだらしく、モニターは録画しておいたテレビドラマが上映されている。 タークスのコンピュータに不正ハッキングを仕掛けた愚か者は、あの後、数十分も経たずに沈黙してしまった。クルツと侵入者では、実力が天と地ほどの差もあった。
相手はタークスの機密情報を盗むつもりでいたらしく、ファイアウォールも突破してきたので玄人ではあったのだろうが、同じ玄人でもクルツは格が違っていたのだ。 侵入者はリアルタイムでクルツが仕掛けていくトラップに、見事に引っかかった。さらに電子の一斉反撃ともいえるエージェント・プログラムを送りつけてられてしまい、最早情報を盗みだすどころではなくなってしまった様だ。
クルツは、部屋の窓から人工の空を見上げた。既に時刻は夜間になっているらしく、人工太陽は落とされ、やや青味ががった暗い空に、星の光をきらきらと再現していた。
「さてと。それじゃ寝るとしますかね」
クルツはそういうと、コンソールを操作して部屋の明かりを落とした。 一応寝台もあるのだが、今や物置と化していて使えないので、彼は椅子に腰掛けたまま、浅い眠りについていった。
明日もきっと、平和だろう。
終
あとがき
はい、どうも。なんか取材を怠ったせいか、どうにもオチなしになってしまった……。 うまく書けなくてごめんなさい、ボスとクルツさん。
んじゃ、また次回〜。
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